認知療法

自殺予防 (岩波新書)

自殺予防 (岩波新書)

うつ病に対する心理療法の一つとして認知療法に触れている部分が興味深かった。

認知療法の目標は次のような点である。

1.現在の問題に関係する認知を探る。
 (認知とは、ある人物が周囲の世界を、その人独自の方法でとらえる様式のことである)
2.認知、感情、行為の間の独特な関係を認識する。
3.重要な確信を支持または反論するような事実を検証する。
4.より適応しやすいほかの選択肢を実行するように患者に働きかける。
5.最終的には、患者が自力で認知療法の過程を実施できるようになることが目標である。

ベック(引用者注:精神科医のアーロン・ベック)によると、うつ病の認知理論は次の三つの概念を仮定している。すなわち、スキーマ(schema)、認知の三徴(cognitive triad)、そして認知の誤り(cognitive error)である。

認知の三徴とは、
1.自分自身に対する否定的な見方
2.自己の経験に対する否定的な解釈
3.将来に対する絶望的な見解
からなる。
すなわち、うつ病患者は、自分は欠陥だらけであり、価値のない存在であると確信している。自分の行ってきたことは全て失敗に満ちていて、現在の自分自身に対しても不当に低い評価しかできない。その結果として、未来も必ず失敗につながるとの確信を抱いている。

認知療法の過程を大きく分けると次のような段階を経ていく。
1.日常生活において、どのような状況で問題が発生したのかを特定する。
2.そしてその時にどのような感情を抱いたのかを探る。
3.認知の誤りで代表される、自動思考のパターンを検討する。
4.その中に認められた認知の歪みを治療者と患者が協力して、検討していく。
5.そのうえで、これまでよりも幅の広い他の解決手段を見出そうと試みる。


私はうつ病では無いのだけれど(概ね健康だし、「うつ病チェックリスト」的なものでも当てはまらないもののほうが多い)、「認知の三徴」の部分が自分の思考パターンとずいぶん近いことに驚いてしまった。
子どもの頃からそうなのだから、そりゃあ生き辛さを感じるわけだよなあ…。

特に、過去・現在の自分への否定的な解釈が、未来の自分の失敗への確信につながっているという指摘は重要だった。

幼い頃はまだ、「私も大人になったら変わることが出来る(そうなったら幸せな人生が待っている)」と期待することができた。
けれど20代後半、"大人"になったはずなのに根本的に全く変わっていない自分を正面から引き受けなければならなくなった頃から、日常が苦しくなった。未来が恐ろしくなった。


今のままの自分では幸せにはなれない。
自分の力で変わらなければならない。成長しなければならない。今のままでは本当にダメになってしまう。
後悔と不満ばかりの人生になってしまう。
努力しなければ。成長しなければ。変わらなければ。


無意識の内にそんな強迫観念に囚われ、しかしそんなに簡単に「デキる自分」になれるわけもなく。
"だらしない自分"を責め続ける毎日が苦しかった。


だけど私の認知は、少し歪んでいるかもしれない。
確かに自分は大して出来た人間ではないけれど、でも決定的な"ダメ人間"では、たぶん、無い。
ごくごく"普通"であるはず。


冷静な頭では分かるそれを、いかに日常の"認知"レベルで認められるようになるか。
大きな課題だけれど、一筋の光明が見えたようにも思う。