「みんないってしまう」山本文緒

短編集。最初に収録されている「裸にネルのシャツ」が一番おもしろかった…というより、今の自分の心境に最も合っていたのだと思う。小説としての構成力は別として、女性の様々な心理をすくいあげて描写する力が、この人の最大の強みだと思った。収録されている12編の中に、誰でも一つは共感する思いがあるのではないか。


「裸にネルのシャツ」は、落ち目になった自分を捨てて出て行った男が、職を失って再びすがってくる話。…というと身も蓋もないが、私はこの男を笑えるだろうか。そんな男、突き放してしまえればいいと思いながら、結局いそいそと会いに行ってしまう女を笑えるだろうか。もしも今、彼が復縁を迫ってきたら、おそらく私はそれを拒めない。いやむしろ、私はそれを望んですらいる。あんなに自分を傷つけた男に対して。


遠くない未来、もしかしたら彼に会う機会があるかもしれない。その事実に、情けないぐらい動揺している。以前読んだ漫画にあったセリフ(「みのり伝説」だったと思う)、「別れた男との再会の条件、教えてあげようか・・・左の薬指に指輪が光っていること、もしくは仕事で一旗あげていること。それまでは会わないほうがいいと思うな」。今の私にはどちらもない。こんな状態で彼に会ったら、間違いなく私はまた彼を求めてしまう。それが怖い。


…あーあ、こんなこと書くつもりではなかったのに。山本文緒のせいだー。責任転嫁。


一つだけ分かっていることがある。彼は、すがる私には興味がないということ。肝に据える。